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栄養基礎知識

油を減らすと太っていた。低脂肪食ブームが肥満率を上げた40年の歴史とPURE研究が示した脂質の真実

油を減らすと太っていた。低脂肪食ブームが肥満率を上げた40年の歴史とPURE研究が示した脂質の真実

1970〜80年代の「脂肪が心臓病を起こす」という仮説が定説化し低脂肪食が推奨されたが、その後欧米の肥満率は急上昇した。Dehghan ら(Lancet, 2017)の18カ国135,335人のPURE研究では、脂質摂取量の増加は総死亡リスクや心血管疾患リスクと正の相関を示さなかった。

diet-app.jp 編集部·2026-10-05·9分で読める

1970〜80年代の「脂肪が心臓病を起こす」という仮説が定説化し低脂肪食が推奨されたが、その後欧米の肥満率は急上昇した。Dehghan ら(Lancet, 2017)の18カ国135,335人のPURE研究では、脂質摂取量の増加は総死亡リスクや心血管疾患リスクと正の相関を示さなかった。

低脂肪食ブームで太る人が増えたのは、低脂肪食品が脂肪を減らした分、砂糖や精製炭水化物を増やし、総カロリーが増えたためと考えられます。この時期、米国の肥満率は1980〜2000年の20年で14.5%から30.9%へほぼ倍増しました。PURE研究(Lancet, 2017)でも、脂質の摂取量が多い人で死亡や心血管疾患のリスクは上がりませんでした。一方、炭水化物の多い食事ほど死亡リスクは高くなりました。

「脂肪が悪い」はどこから来たのか

1950年代、アメリカの生理学者 Ancel Keys は「Seven Countries Study(七カ国研究)」で、脂肪摂取量が多い国ほど心臓病死亡率が高いという相関を示した。この研究は1950〜70年代にかけて米国政府の栄養政策に強く影響し、「脂肪を減らして炭水化物を増やす」低脂肪食ガイドラインが世界に広まった。

しかし後に、Keys がデータを利用可能な22カ国中7カ国に絞って示したことが批判された。残りの15カ国のデータを含めると相関は消えた(Yerushalmy & Hilleboe, 1957)。観察研究の恣意的なデータ選択が数十年にわたる栄養政策の誤りの出発点になった。

低脂肪食ブームの後に何が起きたのか

1980年代からアメリカで低脂肪食品が大量に登場した。脂肪の代わりに砂糖・精製炭水化物が増量され、消費者は「低脂肪=ヘルシー=たくさん食べていい」と判断し、総カロリーが増加した。

CDC(米国疾病予防管理センター)のデータでは、1980〜2000年の20年間でアメリカ人の肥満率は14.5%から30.9%へとほぼ倍増した。脂肪摂取量は減少したにもかかわらず、肥満率は上昇した。

PURE研究は何を示したのか

Dehghan M ら(Lancet, 2017)のPURE研究は、18カ国135,335名を対象に食事と健康アウトカムの関係を追跡した大規模コホート研究だ。

主な結果:

  • 脂質摂取量が多いグループは総死亡リスクが低かった(最高五分位 vs 最低五分位で23%低下)
  • 飽和脂肪酸の摂取量も死亡リスクと逆相関した
  • 炭水化物摂取量が多いグループほど総死亡リスクが高かった
  • 脂質摂取量と心血管疾患リスクに有意な正の相関は見られなかった

この研究は発展途上国を含む幅広い国々を対象にした点で、従来の欧米中心の研究より普遍性が高い。

脂質が満腹感を生む仕組みは何か

脂質を摂ると腸から複数の満腹ホルモンが分泌される。

コレシストキニン(CCK):脂肪が小腸に到達すると分泌され、胃の排出速度を遅らせ食欲を抑える。Lieverse RJ ら(Gut, 1995)の研究では、脂質の摂取量に比例してCCKが分泌されることが示された。

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):脂肪・タンパク質を摂ると分泌が増加し、インスリン分泌促進と食欲抑制の両方に働く。GLP-1は現在の肥満治療薬(オゼンピック等)の標的ホルモンだ。

低脂肪食では脂質を精製炭水化物に置き換えることで、これらの満腹ホルモン分泌が減少し食後の満足感が低下しやすい。結果として食べる量が増える悪循環が起きる。

避けるべき脂質と積極的に摂るべき脂質はどう違うのか

すべての脂質が同じわけではない。

避けるべきもの:トランス脂肪酸(マーガリン・ショートニング・一部の加工食品)。LDLコレステロールを上げHDLを下げ、心臓病リスクを明確に上げる(Mozaffarian D ら, NEJM, 2006)。多くの国で規制が進んでいる。

積極的に摂るべきもの:オメガ3脂肪酸(青魚・アマニ油・えごま油)は炎症抑制・中性脂肪低下の効果が研究で示されている。オリーブオイルの一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)は地中海食研究(PREDIMED試験)で心血管リスク低下と関連した。

量に注意が必要なもの:飽和脂肪酸(バター・ラード・脂身の多い肉)は近年の研究では以前ほどの悪評は薄れているが、炭水化物の質や全体の食事パターンとの組み合わせで判断すべきとされる。

糖質の種類と体への影響で解説したように、脂質を減らして精製炭水化物を増やす低脂肪食は血糖スパイクを招き代謝を悪化させるリスクがある。

Q: アボカドや卵の脂質は体に悪いですか?

A: アボカドはオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)が主成分で、PURE研究を含む複数の研究で心血管リスクとの正の相関は示されていない。卵はコレステロール含有量から敬遠されてきたが、食事中のコレステロールと血中コレステロールの相関は弱く、健康な成人では1日1〜2個の摂取が心血管リスクを上げないとされる(Rong Y ら, BMJ, 2013)。

Q: バターとオリーブオイル、どちらを選ぶべきですか?

A: エクストラバージンオリーブオイルの一価不飽和脂肪酸は、PREDIMED試験で心血管リスク低下と関連した。バターの飽和脂肪酸は近年の研究では以前ほど悪評が高くないが、過剰摂取はLDLコレステロール上昇と関連する可能性がある。日常的な調理にはオリーブオイルを基本にし、風味としてバターを少量使う組み合わせが研究のエビデンスと整合している。

Q: ケトジェニックダイエットは安全ですか?

A: 炭水化物を極限まで減らして脂質を主エネルギー源にするケトジェニックは短期的な体重減少効果が研究で示されている(Paoli A ら, Nutrients, 2013)。ただし長期的な安全性は十分に確立されていない。腎臓・肝臓への負荷、電解質バランスの問題、継続困難のリスクがある。「脂質は悪くない」という事実は、ケトジェニックの安全性保証とは別の話だ。

この記事のまとめ

  • 「脂肪=心臓病の原因」という仮説はAncel Keysによる恣意的なデータ選択から生まれ、15カ国のデータを含めると相関は消えた(Yerushalmy & Hilleboe, 1957)
  • 低脂肪食ブームの後、アメリカの肥満率は20年間でほぼ倍増した。脂肪の代わりに砂糖・精製炭水化物が増加したことが一因
  • PURE研究(Lancet, 2017)の18カ国135,335人の追跡では、脂質摂取量増加は総死亡リスクの低下と関連し、炭水化物の多い食事が死亡リスクと関連した
  • 脂質はCCK・GLP-1などの満腹ホルモンを分泌し食欲を抑制するため、適切な脂質摂取は過食の防止につながる
  • 避けるべきはトランス脂肪酸(加工食品の植物油)であり、オリーブオイル・青魚のオメガ3・アボカドの脂質は心血管リスクと逆相関する

※ 本記事の情報は一般的な健康・栄養知識の提供を目的としており、医療アドバイスの代替となるものではありません。 持病や治療中の方は、必ず医師・専門家にご相談ください。 本記事は編集ポリシーに基づき、一次情報と照合のうえ制作しています。

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