市販のヨーグルトに含まれる乳酸菌の多くは胃酸・胆汁で死滅し、腸内フローラの構成をほぼ変えない。Suez ら(Cell, 2018)の研究では、プロバイオティクス摂取後の腸内細菌変化は限定的で個人差が極めて大きく、一部の人では腸内フローラの自然回復を妨げる可能性が示された。
市販のヨーグルトに含まれる乳酸菌の多くは胃酸・胆汁で死滅し、腸内フローラの構成をほぼ変えない。Suez J ら(Cell, 2018)の研究では、プロバイオティクス製品を摂取しても腸内細菌の変化は限定的で個人差が極めて大きく、抗生物質後の腸内フローラ回復においては、プロバイオティクスを摂らなかったグループの方が速く自然回復したことが示された。腸内環境の改善には乳酸菌の摂取より、腸内細菌のエサとなる「プレバイオティクス」の方が有効だ。
なぜヨーグルトの乳酸菌は腸に定着しないのか
乳酸菌が腸に到達するためには胃酸(pH 1.5〜3.5)と胆汁という2つの障壁を通過しなければならない。一般的な乳酸菌(ラクトバチルス属・ビフィドバクテリウム属)のほとんどはこの環境で死滅するか、通過できたとしても生存数が大幅に減少する。
Suez J ら(Cell, 2018)はヒト腸内細菌を高精度で測定するシングルセル技術を用いて、25名の被験者にプロバイオティクスを4週間摂取させた。大腸内視鏡で直接腸内を観察した結果、プロバイオティクスの菌が腸粘膜に「定着」した被験者は約半数にとどまり、残り半数では摂取した菌がほぼ検出されなかった。腸粘膜への定着率はその人が元々持つ腸内細菌の組成に強く依存していた。
抗生物質後にプロバイオティクスを飲むのは逆効果なのか
Suez ら(2018)の研究には抗生物質後の腸内フローラ回復についての実験も含まれていた。抗生物質を使用した後:
- プロバイオティクスなし(自然回復)グループ:21日間で腸内フローラがほぼ元の状態に戻った
- プロバイオティクス摂取グループ:5ヶ月後も腸内フローラが元に戻らなかった
プロバイオティクスの菌が腸に一時的に定着することで、元の固有菌の回復を遅らせた可能性がある。抗生物質後に「腸活のためにヨーグルトを食べる」という一般的な習慣が、むしろ腸内フローラの回復を妨げる可能性を示した研究だ。
食物繊維と発酵食品ではどちらが腸内細菌に効くのか
Wastyk HC ら(Cell, 2021)は成人36名を「高食物繊維食グループ」と「高発酵食品グループ」に分けた10週間の介入研究を実施した。
高発酵食品(ヨーグルト・ケフィア・キムチ・コンブチャ等)グループでは、腸内細菌の多様性が増加し、免疫炎症マーカー(19種類のタンパク質)が低下した。
一方、高食物繊維グループでは腸内細菌の多様性増加は限定的だったが、腸内細菌が食物繊維を代謝する能力(エンコードされる遺伝子数)が増加した。
重要な示唆:発酵食品は多様な生きた菌を供給することで腸内生態系を直接活性化する。食物繊維は既存の腸内細菌を育てることで機能する。どちらが優れているかでなく、「多様な発酵食品+食物繊維」の組み合わせが最も腸内環境を改善する。
プレバイオティクスとプロバイオティクスの違いは何か
プロバイオティクス:生きた菌を直接摂取すること(ヨーグルト・乳酸菌飲料・サプリ等)。定着率に個人差があり、効果が不安定。
プレバイオティクス:腸内細菌のエサになる食物繊維・難消化性オリゴ糖等。腸内に元々いる有益菌(ビフィドバクテリウム等)を選択的に増やす。
プレバイオティクスが豊富な食材:
- フルクトオリゴ糖(FOS):玉ねぎ・ニンニク・バナナ・アスパラガス
- イヌリン:ごぼう・チコリ・キクイモ
- βグルカン:オートミール・大麦
- レジスタントスターチ:冷えた白米・豆類
カロリーの吸収と腸内細菌の影響で解説したように、腸内細菌の組成の違いが同じ食事から吸収されるカロリーを1日150kcal変えることがある。腸内環境を整えることは体重管理の直接的な要因になる。
Q: 毎日ヨーグルトを食べている人は腸活の意味がないのですか?
A: 意味がないわけではない。Suez ら(2018)が示したように定着率に個人差があり、腸粘膜に定着できる人では有益な変化が起きる可能性がある。また一時的に通過するだけでも腸の免疫系への刺激(腸管免疫の訓練)になるという見方もある。ただし「腸内細菌が増える・定着する」という期待は過大評価であり、食物繊維(プレバイオティクス)との組み合わせが効果を高める。
Q: 腸内細菌を調べるサービスは意味がありますか?
A: 腸内細菌の構成を測定するサービスは存在するが、現時点での臨床的意義は限定的だ。Suez ら(2018)の研究が示したように、プロバイオティクスへの応答性は個人の腸内細菌組成に依存するため、測定結果を活かして「あなたにはこの菌が必要」という精度の高い介入は研究途上にある。腸内細菌の多様性を高める食事(多種類の野菜・発酵食品・食物繊維)を実践する方が、測定に頼るより現実的だ。
Q: 腸内環境が悪いとどんな影響がありますか?
A: 腸内フローラの乱れ(ディスバイオシス)は体重増加・免疫機能低下・メンタルヘルス(腸脳軸)への影響が研究で示されている。Ley RE ら(Nature, 2006)では肥満者の腸内細菌組成が痩せ型と異なることが示された。また腸内細菌は神経伝達物質(セロトニンの約90%は腸で産生)の合成にも関与するため、腸内環境の悪化が気分・ストレス反応に影響する可能性がある。
この記事のまとめ
- 市販のヨーグルトの乳酸菌は胃酸・胆汁の障壁を通過できず、腸への定着率は個人差が大きく約半数では菌がほぼ検出されなかった(Suez ら, 2018)
- 抗生物質後にプロバイオティクスを摂取したグループは、摂取しなかったグループより腸内フローラの回復が5ヶ月後も遅れていた(Suez ら, 2018)
- 高発酵食品食(ヨーグルト・キムチ・コンブチャ等)は腸内細菌の多様性を増加させ、免疫炎症マーカーを低下させた(Wastyk ら, 2021)
- 腸内細菌のエサとなるプレバイオティクス(玉ねぎ・ごぼう・オートミール・豆類)が腸内細菌の質を安定して改善する
- 「多様な発酵食品+食物繊維」の組み合わせが、単一の乳酸菌サプリより腸内環境改善に効果的